閨Bその申立次の如し。本人は最初に梯子を登りし一人なり。疑はしき二人の声を聞けり。そつけなき声はフランス人なりきと思はる。数語をばたしかに聞き取りたり。鋭き声の方は一語をも解せざりき。この声の主は不揃なる調子にて早口に饒舌《しやべ》りたり。或はロシア人なりしかと云へり。その他前記数人の申立に符合せり。本人はイタリア人にて、ロシア人と対話せしことなしと云ふ。
再び呼び出されたる証人数人の申立に依れば、第四層屋の諸室のカミン炉は皆甚だ狭くして、人の逃れ出づべき容積を有せずと云へり。然れども屋内の煙突は皆尋常煙突掃除人の使用するが如き円筒形の煤刷毛を以て上下とも十分に掃除せられたり。屋内には裏梯子なきを以て、人々の表梯子より登る間に、何人も階上より逃れ去りし筈なし。煙突内にねぢ込みありし娘の屍体は、如何にも無理にねぢ込みしものと見え、これを引き出すには四五人の男力を合せて纔《わづか》に出すことを得たり。
ポオル・ドユマアは屍体検案の為め召喚せられし医師なり。その申立次の如し。本人の呼び出されしは払暁なりき。二人の屍体は娘の屍体を発見せし室の藁布団の上に置かれたりき。娘は擦過創及挫傷の為め
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