ラき殺人犯は何者の所為《しよゐ》なるか、余等の探知したる限にては、その筋に於て未だ何等の手掛かりをも得ざるものゝ如し。」
翌日の新聞には、この残酷なる犯罪に関したる記事の続稿を載せたり。その文に曰く。
「病院横町の悲劇。古来|未曾有《みそう》の惨事たる本件に関し、審問を受けたる者数人あり。何人の告条も本件に光明を投射するに足らずと雖、左に一々これを列記せんとす。
ポオリイヌ・ドユブウルは洗濯を業とする婦人なるが、次の申立をなせり。本人はレスパネエ夫人及その娘と相知ること三年に及べり。これレスパネエ家の洗濯物を引受けゐたるが為めなり。老婦人と娘とは平生仲好く暮し、互に鄭重に取扱ひゐたり。洗濯代は滞なく潤沢に払ひくれたり。生活費は如何なる財源より出でたるか知らず。風聞に依れば、夫人は巫女《みこ》を業とし、人の為めに禍福を占ひ、その謝金を貯へたりと云ふ。本人は洗濯物を受け取りに往き、又返しに往きし時、来客ありしを見たることなし。母子が全く奉公人を使ひをらざりしことは確実なり。家屋には第四層の外、何処《いづこ》にも家財を備へあらざりしものゝ如し。
ピエエル・モロオは煙草商なり。その申立次
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