s方は最初不明なりき。既にして人々はカミン炉の上に多量の煤《すゝ》あるを見て、試に炉中を検せしに、人の想像にも及ばざる程の残酷なる事実を発見せり。女主人の娘の屍体|倒《さか》さまに炉の煙突に押し込みありしことこれなり。頭を下にして、非常なる暴力を以て狭き煙突内に押し込みたるなり。体には猶温みありき。皮膚を検するに許多の擦傷《すりきず》あり。多くは強ひて煙突に押し込みし時生じたるものなるべく、その一部分は引き出す時生じたらんも知るべからず。顔には引き掻きたる如き深き傷あり。前頸部には指尖にて圧したる如き深き痕あり。又暗紫色なる斑あり。これ等は絞殺したるにはあらずやと想像せしむ。
人々は屋内所々を精密に捜索せしに、前記の他には別に発見する所なきを以て屋後なる中庭に出たり。中庭は石を敷き詰めあり。この中庭に女主人の屍体ありき。前頸部より非常に深く切り込みたる創あり。僅に項《うなじ》の皮|少許《せうきよ》にて首と胴と連りゐたる故、屍体を擡《もた》ぐる時、首は胴より離れたり。首もその他の体部も甚しく損傷しあり。就中《なかんづく》胴と手足とは、殆ど人の遺骸とは認められざる程変形せり。
右の恐る
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