、肌には樹脂《やに》が黏《ねば》り附いた。
 己の周囲に足音がした。多分レオネルロを己と同じ目に逢はせるのだらう。どうもそれにレオネルロが抗抵するらしい。己のやうに賊のする儘にさせてゐないらしい。物音で判断すると、さう思はれるのである。己はレオネルロが抗抵して、ひどい怪我をしないと好いがと思つた。こんな時には敵対しないで、人のするやうにさせてゐるが好い。避けられぬ事を避けようとしたつて、なんの役にも立たぬからと、己はレオネルロに忠告したかつたが、猿轡を嵌められてゐるので、詞を出すことが出来なかつた。
 暫くして周囲がひつそりした。己は賊等が目的を達してしまつたのだなと思つた。その時突然大勢が何やらどなりながら大声で笑ふのが聞えた。併しそれは只一刹那の事で、其跡は又ひつそりした。己は賊等が為事《しごと》をしおほせて満足して逃げたなと思つた。風が静かに木々の頂《いただき》をゆすつてゐる。夜の鳥が早い、鈍い羽搏《はゞたき》をして飛んで行く。そして折々ピニイの木の実が湿つた地に墜ちる音がする。
 己とレオネルロとの二人は寂しい林の真ん中にゐるのだ。一人々々ピニイの木の幹に縛り附けられてゐるのだ
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