ンの死骸はサン・ステフアノの寺に葬られた。両手を赤い創の上に組み合はせて葬つたのである。葬式が済んでからも我々は同じ疑惑を除くことが出来ない。バルバリゴだらうか、ヲレダンだらうか、ピルミアニだらうか、それともボツタロルだらうか。我々は出逢ふ度毎に猜疑の念を起さずにはゐられない。握手するにも気が置かれてならぬ。
絶えずかう云ふ不安の念に悩まされて、次第に双方機嫌の悪くなつたバルバリゴとボツタロルとは、とう/\争論をして決闘することになつた。争論の生じた真の原因は公に言はれぬので、二人は詰らぬ尾籠な事を表向の理由にした。ボツタロルは負傷した。バルバリゴはそのために大陸へ逃亡しなくてはならなくなつた。
己は深い悲みに沈んだ。それはアルドラミンの死を忘れることが出来ぬからである。レオネルロは己を慰めようとした。種々《しゆ/″\》の楽器を弄することが上手なので、その音色で己の鬱を散じてくれようとした。己とレオネルロとは相変らず毎日逢つてゐる。此男を疑ふ念は一|度《たび》も己には萌さなかつた。此男は物柔なのと物事を打ち明けるのとで、己を陰気な思想に耽らせぬやうにして、己の絶えず胸に思つてゐる事
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