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蝋燭が附いてから、己達がバルタザル・アルドラミンを抱き起して見たら、その胸には一つの匕首が深く刺し貫いてあつた。その尖は心の臓を穿つたと見えて、アルドラミンは即死してゐたのである。
四
我々七人の客はあつけに取られて、身動きも出来ずに、屍骸《しがい》の周囲に立つてゐた。七人と云ふのはルドヰコ・バルバリゴ、ニコレ・ヲレダン、アントニオ・ピルミアニ、ジユリオ・ボツタロル、オクタヰオ・ヱルヌツチ、それからレオネルロと己とである。どれもどれもアルドラミンの親友で、愛したり愛せられたりしてゐるのだから、一人として危険を冒しても此別荘の主人の性命を救つて遣りたいと思はぬものは無い。我々は互に嫉妬などをし合つたことが無い。喧嘩と云ふ程の衝突をもしたことが無い。我々の間には只敬愛の情があつた丈である。
さうして見れば、アルドラミンは自殺したに違ひ無い。此男の性命を絶つた鋭い匕首は、自分で胸に刺し貫いたものに極まつてゐる。併しなぜこんな事をして死んだのだらうか。年はまだ若い。財産はある。幸福に暮らしてゐる。かうした身の上でゐて、我々一同にどんな憂悶を隠してゐたのだらうか。
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