が彼青年紳士レオネルロの友人になつたやうに、己も亦あの人の友人になつた。己は君がどうしてあの人と相識になつたかと云ふ来歴を聞いた。レオネルロはパレルモに生れたのだ。それを両親が当世風の生活に慣れさせるためにヱネチアに来させたのだと、レオネルロが自ら語つた。もう此土地に来てから一年ばかり立つてゐて、レオネルロはどうやら此土地を第二の故郷にして、パレルモの事を忘れてしまつたらしかつた。レオネルロは全くシチリア風の特徴を具へた美少年である。目は生々として表情に富んでゐる。鼻には上品な趣がある。口も人に気に入る恰好をしてゐて、髭は少しも生えてゐない。それに歩く様子がひどく好い。それから手のひどく小さいのを己は珍らしく思つた。段々心安くなつて見ると、温和と謙遜との両面から見て、あの人の性格がいかにも懐かしかつた。あの人は女好では無い。わざとらしく女に接近することを避けてゐた。宗教の信者だらうと思はれた。併し君と己とが遊ぶ時は、あの人も一しよになつては遊ばぬまでも、傍看者として附き合つて丈はくれた。
己達は又青春の最も美しい快楽を味ひ始めた。君と己とのはもう行楽の時代が過ぎ去らうとしてゐるのに、
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