るやうに思はれた。庭を余り久しく散歩した為めか、それとも外に原因があるのか。此人は見掛けが丈夫らしくても、どこか悪い処があるのだらうか。バルヂピエロの年齢はもう性命を維持して行く丈の力しか無くなる頃になつてゐる。あれでも若し将来に於いて自分にふさはしい限の事をしてゐたら、まだ長く体を保つて行かれるだらう。然るにこのバルヂピエロはもう若いもので無いと諦念《あきらめ》を附けることの出来ない人として、世間の人に知られてゐる。此人は今も機会があつたら若いものの真似をしようとしてゐる。自分では控目にしてゐるのかも知れぬが、それでもその冒険が度を過ぎてゐるらしい。
いろ/\話をしてゐるうちに、己がかうではあるまいかと思ひ遣つたやうな事を、主人が公然打ち明けて訴へ出した。己を為合《しあは》せだと云つて褒めて、それを自分の老衰に較べた。その口吻《こうふん》が特別に不満らしかつた。己は気を着けて聞いてはゐない。己の考では、それはどうせ人間の一度は出逢ふ運命で、人間は早晩さうなると云ふことを知つて、さうならぬうちに早く出来る丈の快楽を極めるが好いのだ。そこで己は話をしながらも盛んにジエンツアノの葡萄酒を
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