ば、この土地では相応に楽に暮されるやうになるのである。
 一体ヤクツク人は人の善い性《たち》で、所々の部落で余所《よそ》から来たものに可なりの補助をして遣る風俗になつてゐる。実はこんな土地へ、運命の手に弄《もてあそ》ばれて来たものは、補助でも受けなくては、飢ゑ凍えて死ぬるか、盗賊になるかより外に為方《しかた》がないのである。ヤクツク人は又土地を通り抜けるものにも補助をして遣る事がある。それは足を留められては厄介だと思ふからである。さういふ補助を受けて、土地を立つて行つたもので、又帰つて来るものはめつたに無い。そんなのでなく、真面目に働かうと思ふものには、土人が補助をして、間もなく相応に自活の出来るやうにさせる事になつてゐる。
 最初ワシリは部落の自治団体から小屋を一つ、牡牛を一疋貰つて、その年に燕麦《からすむぎ》の種を六ポンド貰つた。為合《しあは》せとその年は燕麦の収穫が好かつた。その外ワシリは、土地のものと契約して、草を苅らせて貰つた。煙草の商ひもした。こんな風にして二年立つ内に相応な世帯が出来たのである。
 土地のものはこの男を相応に尊敬して、面と向つてはワシリ・イワノヰツチユさん
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