なたにすっかり身の上を打明けてお話しなさいましたの。
画家。うむ。跡になってすっかり話したのだ。初めに己が洗い浚《ざら》い饒舌《しゃべ》ってしまって、それから向うが話し出した。まるでずっと昔から知り合っている中《なか》のように、極親密に話したのだ。子供の時の事も聞いたし、双親《ふたおや》の事も聞いた。双親とも亡くなって、一人ぼっちなのだそうだ。あんな風になったのも、そのせいかも知れなかったよ。
モデル。あんな風と仰ゃるのは。
画家。不思議に打明けるようになったのが。
モデル。そのお嬢さんが一人ぼっちでいらっしゃったからだと仰ゃるのね。
画家。うむ。丁度己のように一人ぼっちでいたのだから。
モデル。あなたのようにですって。
画家。(微笑む。)そうさ。己のように一人ぼっちなんだ。ふん。お前のようにといっても好《い》いかも知れない。お前だって一体一人ぼっちなのだろう。
モデル。(無理に笑う。)わたしですか。わたしは随分お友達《ともだち》がございますわ。
画家。(娘の笑うのに、ほとんど気付かざる如《ごと》く。)ほんにあんな事があるという事をきのうより前に己にいうものがあったら、己だって信じはし
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