こころやす》くしていらっしゃいますの。
学士。そうですね。古い知合という程度ですよ。年を取った男爵は、わたくしの医者としての職業上で、よほど前からわたくしと交際していられるのです。それから今度嫁に来られるお嫁さんのお里もわたくしは知っています。
姉。それでは御縁組のある両家ともお知合なのですね。それなのに儀式にはいらっしゃらなかったのですか。
学士。いや。わたくしは婚礼の席へ行くのは大嫌《だいきらい》です。
姉。気味の悪いようにお思いなさるのでしょうか。
学士。そうですね。何んだかこう角立《かどだ》って、大業《おおぎょう》に見せるのが不愉快なのです。
姉。それではあなたのお考《かんがえ》では、婚礼というものは、こっそりいたした方が宜しいのですね。
学士。ええ。なるべく目に立たないようにしたいものです。葬《とむらい》の方なら、少しは盛大にしたって好いのです。死人を嫉《ねた》むものはありませんから。
姉。それはそうでございますね。死人なら誰も嫉みは致しますまい。そういうお心持は分りますわ。
学士。どうお分りですか。
姉。あなたは生活がお好《すき》なのでしょう。
学士。(微笑む。)兎に角生活
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