姉。(笑いつつ。)お前の処へなら来るでしょうよ。
画家。(やはり笑いつつ。)まあ、来て下さるものだと思って置きましょうよ。(間。真面目に。)本当に姉さんが来て下さると好いのだが。
姉。(解《かい》せざる様子。)ええ。
画家。実は僕は寂しくって為様がないのです。こないだから姉さんの処へ越して行こうかとも思って見ました。たしか客間が一つ明いていたでしょう。それともここで寂しいと思うのは、あんまり家が広過ぎるせいかも知れません。兎《と》に角《かく》姉さんとおっ母さんと僕と一しょに住《すま》って見るという事が、出来ない事もあるまいと思うのです。晩にでもなれば誰《たれ》か本でも読んで、みんなでそれを聞いたって好いでしょう。燈《あかり》を点《つ》けて本を読むのが目に悪けりゃあ、話をしていたって好いわけです。誰かが纏《まとま》った話をして、みんなで聴いても好いでしょう。事によったら黙っていたって一人で黙っているよりは好かろうじゃありませんか。実際僕は折々そんな風にみんなと一しょになっているような心持になるのですよ。(疑念を挟《さしはさ》むらしき姉の目付を見て言い淀む。)ふん。
姉。お前がそんな風に一
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