でしょう。
姉。(微笑む。)それはありませんとも。それにわたしは丁度あんな風な子だろうと思っていましたの。真面目な、静《しずか》な顔付で、色艶が余り好くなくって。口は何事も堪《こら》えて黙っているという風な、美しい口なのね。額と目とには気高い処がありますね。目なんかは丁度あんな風だろうと想像していましたの。
画家。(詞急に。)そうでしょう。面白い目です。あの目に今日気が付いたのです。(間。)その外の事も姉さんの思っている通りかも知れません。(姉は弟の詞を解《かい》し兼ねたる如《ごと》く、顔を見る。)僕のいったのは、あの娘の心も顔のような風かも知れないというのです。(間。突然。)そうそう。あのロイトホルド君が今に来るのですがね。姉さんはここで顔を合せるのが厭ではありませんか。
姉。いいえ。わたしは構いませんの。
画家。でもあんなに熱心に、姉さんをおよめに貰おうとしていたのを、姉さんが弾付《はねつ》けたのですから。
姉。なあに。ちっともことを荒立てずに断ったのだから、わたしはここで逢《あ》ったって、困りませんの。それにあの方はもう内へは来られないでしょう。おっ母さんが変に思うから。昔風の人
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