しい。だが好いよ。かきかけたスケッチはあそこにあるし、己の頭の中には印象がはっきりしているのだから。じゃあ明日《あした》来て貰おう。
モデル。(思い掛けぬ喜びの様子。)あの明日《あした》参っても宜《よろ》しいのですか。
画家。(徐《しずか》に。)うむ。午前八時か九時頃に来て貰おう。来られるかい。
モデル。ええ、ええ。
画家。それで好い。さようなら。(戸を閉じて忙がし気に帰り来て、姉に。)姉さん。済みませんでした。少し言い残したことがあったもんですから。
姉。大相《たいそう》勉強するのね。明日《あした》八時からかくなんて。
画家。なあに。どうなるか分りゃしない。ただやって見るのです。マッシャが僕に諫言《かんげん》をしたというようなわけで。ははは。それはそうと姉さんはマッシャに握手をしておやりなさいましたね。大変喜んだようでしたよ。
姉。そりゃあお前の話に好く聞いていたんだから、古い知合《しりあい》のようなんだもの。去年の冬、いろんな事を聞いたのでしょう。まあ、あたりまえのモデルとは違うのね。
画家。そりゃあ違います。
姉。だが、別品ではありませんね。
画家。僕は別品だなんといった事はない
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