ぜ聞くの。」かう云つて娘はセルギウスの手を握つて接吻した。それから両腕でセルギウスの体に抱き付いて、しつかり抱き締めた。
「マリア。お前どうするのだい。お前は悪魔だなあ。」
「あら。何を言つてゐるの。こんな事はなんでもありやしないわ。」かう云つていよ/\きつく抱き締めて一しよに床の上に腰を掛けた。
――――――――――――
夜が明けてセルギウスは戸の外へ出た。「一体|昨夕《ゆうべ》の事は事実だらうか。今にあの父親が来るだらう。そしたら娘が何もかも話すだらう。あいつは悪魔だ。まあ、己は何をしたのだらう。あそこには斧がある。己のいつかの時指を切つたのが、あの斧だ」。セルギウスは斧を手に持つて、庵室に帰つた。
世話をしてゐる僧が出迎へた。「薪をこはしませうか。こはすのなら、その斧を戴きませう。」
セルギウスは斧を渡した。そして庵室に入つた。娘はまだ横になつたまゝでゐる。眠つてゐる。セルギウスはひどく気味悪く思つて娘を見た。それから兼ねてしまつて置いた百姓の衣類を取り出してそれを着た。それから剪刀《かみそり》を取つて髪を短く切つた。
セルギウスは庵室を抜け出して、森の中の道を
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