を見て独りで感動してゐる。
 春の事であつた。ロシアでクリスト復活祭の第四週の水曜日にする寺院の祭がある。その祭の前日であつた。セルギウスは草庵の小さい龕《がん》の前で晩のミサを読んだ。草庵には這入られるだけの人が這入つてゐた。二十人位もゐたゞらう。皆位の高い人や金持である。一体セルギウスは誰をでも草庵に入れる事にしてゐるが、いつもセルギウスに付けられてゐる僧と、日々《にち/\》僧院から草庵へ派遣する事になつてゐる当番の僧とで、人を選《え》り分る。草庵の外には群衆が押し合つてゐる。巡礼者が八十人許もゐて、それには女も多く交つてゐる。それ等が皆戸口の前にかたまつてゐて、セルギウスの出るのを待つて、祝福をして貰はうと思つてゐる。
 ミサは済んだ。セルギウスは歌を歌ひながら草庵を出て、先住の墓に参らうとした。併し門口を出ると、よろけて倒れさうになつた。するとすぐ背後《うしろ》に立つてゐた商人と寺番の役をしてゐる僧とが支へた。
「どうなさいました。セルギウス様。あゝ。わたし驚いてしまつた。まるで布のやうな白い色におなりなすつたのだもの。」かう云つたのは女の声である。
 セルギウスはすぐに気を取
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