物を使用する必要はないではありませんか。第一塗物類は熱湯に投じて消毒することはできないのみでなく、四角なものはよく見ることでありますが、隅々が奇麗に洗ってあることも少ないのでありますから従って不潔ではありませんか。それよりも安価で清潔に消毒もできる瀬戸物類の方がよいと思われます。ただし西洋皿の上に簀を敷くようではへんなものですから、蕎麦屋の方で考えて小判形にすることもよいし、また隅丸のものにするのもよいではありませんか。四角ものもよい訳でありますが、これは隅々を丁寧に洗うことは少し困難の点も多ければよした方がよいと存じます。しかし一方のいい分とすると瀬戸物は破れ易いといわれるかも知れませんが、それは塗物も用いていれば塗りは従って悪くなると同様と存じられます。また出前に困るということにもなりましょうが、その出前を取った場合も第一不愉快のことが多いのです。雨の日などは器の上に雨のかかっていることもあり、薬味の小皿の上に広告式の小紙をかぶせては来るも、その紙もぬれているという次第です。また風の強い日に少し遠い蕎麦屋から出前を取ると、大げさかなと思われるようですが、器の上に砂のかぶっていることも少なくないのであります。ですからこれも改良する余地は充分あると考えられるのです。
 関西地方で饂飩屋が出前を持ち運ぶ蓋付の箱、あるいは西洋料理店で使用しているごとき皿の下に敷く重ね輪なり、仕出し箱を使用することにすれば、瀬戸物の器でも差し支えなしと存じます。
 次に店舗でありますが、某蕎麦屋の主人が、著者に話されたことでありますが、一つ店の内部をカウンタ式にしたらば如何でしょうということで、これには著者も同意したことであります。それは一般にとは申されませんが、よいとなると大衆向きになりましょうと答えたことで、停車場のプラットホームでも蕎麦好きの人は、この短時間を利用して食べているのですから、店舗の内部中央に釜場をしつらえそこへ流し場もつけ、水道より絶えず清水を利用し、タイル張りにして特別清潔にして三方をカウンタ式となし、今日おでん屋がやっているようにしたならば、最も理想的な、そうして大衆向きの蕎麦屋となろうというのであります。乞う御一考を蕎麦屋主人に。



底本:「日本の名随筆 別巻19・蕎麦」作品社
   1992(平成4)年9月25日第1刷発行
底本の親本:「栄養と蕎麦料理集成―蕎麦うどん名著選集 第三巻」東京書房社
   1981(昭和56)年7月
入力:加藤恭子
校正:もりみつじゅんじ
2001年2月24日公開
青空文庫作成ファイル:
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