す。好き好きだが、私は味噌の方が好きであります。それへ入れる刻み葱もまた肥料の充分に利いた畑でできて、白根が一尺もあるような、俗にいう根深は風味がないのです。大根同様、痩土に成長して五寸位のもので、信州でも若槻のが一番よろしいのであります。
 大根をおろす時は「頭をぶんなぐれ」という諺がある位で、腹を立てて、うんうんいっておろす位の硬いものがいいのです。軟らかいものは甘くて蕎麦の味とぴったりとこないのです。この大根、この葱で拵えた汁の辛いというものは眼の玉がとび出るほどで、従って汁をたっぷりつけたくともつけられないのであります。
 大根は皮つきのまま、必ず尻っぽの方からおろすとよいのです。これを逆に頭の方からおろすと、ぐっと辛味がなくなってしまう、不思議なことです。
 そこで蕎麦でありますが、これがまた問題で、信州では実は蕎麦はもう贅沢品の中に入っています。どこもここも桑畑になって、まるきり蕎麦などを作る処がなくなってしまい、自然本当の蕎麦粉は非常に少ないものになっています。
 粉は戸隠山の産、これも「蕎麦の木」がようやく六寸位のものからとります。和田峠付近のもまあよいのです。
 更科
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