が、友人を上野駅に見送って帰途、山下のある蕎麦屋に入って、天ぷら蕎麦を注文して食べようとすると驚くではありませんか、その中にしかも立派な油虫が一疋存在ましましたのでした。こんな例は他にもよく聞くことでありますが、代りを食べる心地にもなれぬではありませんか。なぜ調理場に油虫の発生するような不潔なことをするかと思ったこともありました。ともかく、第一今の蕎麦屋なるものの店舗の改良は問題の一つで、大衆向きの店舗にするには今日のごとき表がまえでは、少し身分ある即ち中産階級の人々や婦人連はどうしても入り難いということであります。これについては蕎麦屋側としても大いに一考を要することでしょう。
今一つの問題は、前項蕎麦屋の主人の説としてちょっと述べておきました、蕎麦道具でありますが、蕎麦屋側からいわせると、塗物類は高価であるということであります。これはもっともな説で、他の飲食物の器から見ると少し高価過ぎるかたむきは本当のことで、一枚十銭の「もり」なり、十五銭の笊蕎麦の道具に一円二十銭も、少し良いものは二円近くもかけていることであるから、少し贅沢過ぎると思います。
しかしそんな高価な蒸籠やその他の器
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