老婆の小指の指環が一つ目を引く。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
老爺 いかがでござらっしゃります。
 先ほど、お薬を煎じしゃった火が大方強すぎた事んだろうとの、婆《ばあ》がいかい事案じて居りまする。
婆  ほんにお坊様《ぼんさま》。
 このほうけ婆が、ついうっかり薪をそえたで、常より苦うでござらしただろうかと案じましたので、おわびに出ましたでござります。
[#ここから4字下げ]
老僧話して居るつもりだけれど声は高いし一つ部屋なので法王に話すと同じ事になって仕舞う。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
婆 (人の好いおしゃべりの口調で)それにの、お天とう様の、のぼらしゃった頃からつめてござらした衆が一刻も早くお尊《たっと》い法王様をおがみたいと云うてでござりましての。
 そらな、おききなされませ、
 あの広場での人声がここまでどよんで参りましょうが。
老僧 しかしね、
 どうしたって今日は駄目ですよ。
 大変お疲れ遊ばしてだし第一今御目ざめなすったばっかりなんだから、
 「明日」って云ってお帰しなさい。
 その
前へ 次へ
全66ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング