げ]
小姓下手から去る。
同じ口から法王が出て来る。
前の幕と同じ服装、手に聖書を持つ。
王の前に座ると後を沢山の供人が守る。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
法 お達者で――
王 大変良い時候になり申してのう。
法 まことにおだやかな日和はつづき家畜共さえ持てあますほどリンゴも熟れまいてのう。
これも皆神の御恵でござるわ。
王 美くしゅうは熟れても、心《しん》のやくたいものうくされはてたのが多いのじゃ。
法 したが世の中はその方が良い事が多うござってのう、一概には得申されぬもので……
王 おお、わしが気がつかなんだが御事の御出でやった事には幾重に礼事を申さねばならぬ事らしいのう。
法 否《いや》、わしは母御の頭から生れたものと見え申して礼事を申さるる事と賞めらるる事は虫ずが走るほど厭でござるでの。
あまり調子にのって礼事を云われればやがてはいま一度心にもなくて礼申した人のためにせいではならぬ事が必ず生れるものでのう。
王 一寸も礼も申されいで笑うて居る人は十人に一人とはござらぬわ。
法 一度つい、ひょんな事から溝に落ちてか
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