の中にたった一人にされた様にねえ。
第三の女 そんな事が? 私は一寸も知りませんの、きいた事だってないんでございますの、ましてこの頃は母のそばで仕事ばっかりして居るんでございますもの毎日毎日。
第二の女 私だって――もう此頃は一寸も心配な事は何にもないんでございます。
あの子の病気がなおりましてからはねえ、心配の仕じまいをしたと思って居りましたの、お坊様にさえ来ていただいたほどでございましたものねえ。
お話しなさって下さいましな、気になりますわ。
第一の女 私だって只きいたばっかりの事なんでございますけど……
昨晩でございますわ。
もうお月様がお沈みなさった頃、たくで御前から下って参りましてねえ。
私の顔を見るなり斯う申しましたの。
「陛下は大変御不機嫌でいらっしゃる、何か事が起るにきまって居るわ。あらましの事は知って居るが――」ってね。いろいろにききましたが頭が小さく生れついた女だと云うのでそれより外申しませんでした。
今朝町に参った若い者は、町中のものが、
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良いおねだんの張った馬がさばけるし、武器の御注文は間に合いかねるほどだ
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と申してお城の様子をきいたものさえあると申して居りましたの。
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老近侍はだまって女達の話をきいて居る。
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第二の女 まあ――、初耳でございますわ。
こんないやらしい事をじかにきかなかったのがまだしもの事でございますわ、ほんとうにねえ――
第三の女 あんな馬鹿な心配をしたと笑って仕舞う取越苦労だったら、どんなに嬉しいでございましょう――けれどそうは行かない事かもしれませんわ。
一体お相手はどこの王様なんでございますの。
若しお国そとに居る裸で真黒な顔をして居ると云う話の野蛮人となら私はかてるにきまって居ると信じて居りますわ。
そのきたない人間達は鉄の鎧なんか持って居りますまいもの。
ねえ貴方、ほんとうにお相手はどこの王様でいらっしゃいますの?
第一の女(極く低く細い声で恐る恐る云う)法王様でございますわ――
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二人の女はだまって顔を見合わせる。暫時沈黙。
うめく様に非番の老近侍に云う。
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第二の女 貴方……殿方でいらっしゃいますわ。
恐ろしい事にも度々お出会になった御方でございますわ。
私達の驚かない様にしずかにわけをお話しなさって下さいませな。
これだけの事を知って故を知らないのは尚恐ろしい気持がいたしますもの。
老近侍 荷の勝ちすぎるお望みじゃ……。が、ま、かいつまんで申せば法王様はあんまりお調子に御のりなされたと云うものでの。
お徳をあがめるものは日増にふえて御領地は日ましにひろがる法王様の御声がかりなら死ぬるのは欠伸《あくび》するより御安い御用と思うものが沢山になると陛下が、
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お前を法王に任ずる
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と仰せらるるのがお気に入らんでの。
第一の女 お気に入らないからと云って。
第二の女 お徳の高いお方だと伺って居りますもの。
まさか御|叛逆《むほん》ではねえ。
老近侍 もう、ずんと前からの事じゃと申す話でござるわ、陛下にお書面でお坊様のお役をきめる事はわしにさせて下されと申し越されてお出でなされたのはの。二三度までのお願にはお偉いお方じゃ程に陛下もおだやかに「ならぬ」とばかり仰せられていらせられたが度重なる毎にはお二人のお心が荒立って、
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力ずくでも
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と法王様がついお洩しになったのをお気のつかぬ間に陛下がお伝え知りなされたのが事の始りで今ではもう火をかけた爆薬《はぜぐすり》の様にまことにはや危い御様子じゃとな……。何せ苦々しい事でござるわ。
第三の女 神様は敵を愛せと仰せられていらっしゃいますのに……
老近侍 それが人間と云う名から逃れられぬ証拠でござるわ。
まして強いもの同志の「けんか」は昔からともだおれときまって居る事での。
第二の女 法王様は神の御子だと聞いた事がございますわ。それで人なみ以上の御力をお持ちだと――若しお二人の間にお争いでも起ったら悲しい事だけれ共勝は法王様にお譲りなさらなければならないでございましょうよきっと――
第三の女 この立派な御城も粉々になって仕舞うでございましょうよ、神様の御怒りと法王様の御心でねえ。そうしたらまあ私達はどこに住むんでございましょう。
雪の降り込
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