壺井栄作品集『暦』解説
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)扶《たす》けた
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四九年十月〕
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小説をかくひととしての壺井栄さんが人々の前にあらわれたのは一九三八年(昭和十三年)の末のことであった。この集にはおさめられていない「大根の葉」という作品をよんだ人々は、これまでの婦人作家の誰ともちがった気質と話しぶりとをもっている一人の婦人作家をそこに発見したのだった。つづいて「暦」が栄さんの作家としての力量を動かしがたいものとして示した。
作品集「暦」の出版記念会が一九四〇年(昭和十五年)の春にもたれたとき、テーブル・スピーチに立った人々は、云い合わせたように、壺井栄さんの温く明るく生活の営みを愛して生きぬいてゆく人間としての実力を高く評価した。同時に、ある人は、壺井栄さんがこの頃小説をかき出したにしては、非常に技術がしっかりしているのを、一つの不思議として話した。
昭和十三年―十五年という年は、一方に戦争が拡大強行されて、すべての文化・文学が軍部、情報局の統制、
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