のものであった。きょう、人民は組織をもつようになった。しかし、それを持たすまいとして日夜活動をつづけている権力がある。その権力は金の魔力で組織をこわしさえもする。それとたたかい、不幸から自分たちの運命を救い出してゆくのが、わたしたちの生活の切実な実体だとすれば、壺井栄さんのこの作品集にたたえられている働いて生きるものの実際から苅りとられて来ている智慧、ものわかりよさ、決断、きたないことをきらう精神は、人民生活のもつよりよい素質のいくつかとしてはっきり評価されていい。よい素質だけで人民は歴史の主人となり得ない。組織に属し一定の認識をもつだけで、或はそういう人々だけで幸福の道をきりひらくことも出来ないであろう。現代の歴史がもっているこの機微についても、これらの作品は読者に考えさせるものをもっているだろうと思う。
[#地付き]〔一九四九年十月〕



底本:「宮本百合子全集 第十三巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年11月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房
   1952(昭和27)年5月発行
初出:壺
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