定的な表現の飛躍が理解されない。ますます息づまって来る当時の戦争万能の社会の空気と、そのなかでからくも情緒的な何かを保とうとしているいわゆる女流の文学。そのころはプロレタリア文学の運動も挫かれていた。壺井栄さんは、『戦旗』の発行や発送のためには大きい見えない力として扶《たす》けた人だった。良人や息子を獄中に送った女の人々のよい相談あいてであるばかりでなく励ましてであった。子供のうちから体で働いて生きながら、そのような人生の中に美しいもの、愛くるしいもの、素朴で、うそのない親愛なものの存在するのが、働く人々の宝であることを感じて生きて来た婦人の一人である。自身、人間の生活に何かのよろこびをもたらさずにはいられない栄さんが、世間も文学もあの息苦しさと人為的な形にしいられるなかで、こらえ切れなくなった息を一つ深く深く吸いこみ、さて、と立って襷をかけ、動き出したのが、「暦」そのほかこの集にもおさめられたいくつもの作品であったのではないかと思う。「暦」にしろ、「女傑の村」にしろ、盲目の女の子を語る「赤いステッキ」、子供の労働を、ひとりでにいつか遊戯と絡まり合う自然の姿で描いた「桃栗三年」、不幸だ
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