、それと同時に、日本の天皇制[#「天皇制」に×傍点]は、その独自の、相対的に大なる役割と、似而非《えせ》立憲的形態で軽く粉飾されているに過ぎない其の絶対的性質とを、保持している。自己の権力と自己の収入とを貪慾に守護している天皇制[#「天皇制」に×傍点]的官僚は、国内に最も反動的な警察支配を布き、国の経済および政治的生活に於てなお存するありとあらゆる野蛮なるものを維持するために、その全力を傾けている。国内の政治的反動と一切の封建性の残滓の主要支柱である天皇制[#「天皇制」に×傍点]的国家機構は、搾取階級の現存の独裁の鞏固な背骨となっている。その粉砕は日本に於ける主要なる革命的任務中の第一のものと看做《みな》されねばならぬ。」(独文『インプレコール』四二号)
 (四) ソヴェトの権力は最も包括的なプロレタリアートの大衆組織であると我々は前に云った。実にソヴェトの権力は大衆と密接に結びついているところに、いかなる国家権力よりも民主的で強固だ。
 ソヴェトはブルジョア議会と違って法律を審議するのみならず、それを実施する国家権力である。ソヴェト代議員はブルジョア議会の代議士と違って生産点で大衆と結びついている。「都市ソヴェトは、それを通じて脈搏つ大衆の生命を感ずる、村落ソヴェトは常に標準的な農民と接触している」
 そして大衆は彼等が選出したソヴェト代議員を監視し、その活動を批判し、代議員が職責をつくさない場合には、いつでも召還し得る権利がある。かくして我々は次のことを知るであろう。
 ブルジョア・地主的日本の国家機構に於ける中央集権は、天皇[#「天皇」に×傍点]から小さい村の村長に至るまで一連の鎖によって固く繋がれた搾取と、抑圧のための中央集権である。ソヴェト政体においての中央集権は「労働者が自由意志によって己れの武装せる力を結合させ」たものである。
 次に、この二つの種類[#「二つの種類」に傍点]の中央集権を、比較的近似的に示している図解を掲げて、諸君の参考にしよう。(四九―五〇頁〔本巻五二四―五二五ページ〕)[#図「ロシア社会主義連邦ソヴェト共和国中央及地方機関ノ交互関係」P524、「我国之国家機構図」P525]
 (五) ソヴェト同盟の軍隊赤軍は、社会主義を建設しつつあるプロレタリアート独裁[#「独裁」に×傍点]の国家の重要な一部隊である。裁判所が、勤労大衆自身による社会主義建設の社会的規律の防衛者・反革命の徒の断罪所であるように、それは、勤労者自身の武装である。日本帝国主義の軍隊は、天皇[#「天皇」に×傍点]の手先、軍閥・将校と強制的に徴集され牛馬の如き非人間的条件の下に働かされる「軍服をきた労働者・農民」でつくられている。が軍隊は、勤労大衆の鎮圧と、帝国主義戦争の武器としての役目を負わされている。それであればこそ、自己の階級の使命に目覚めた労働者・農民は、武器を逆に向けて支配階級を倒そうとして蹶起しているのだ。
 ソヴェト同盟の赤軍は、国内に於ける反革命の徒から、社会主義建設を守るのみならず、ソヴェト同盟へ干渉戦争をふっかけようとしている列国帝国主義の攻撃から、社会主義建設を守るのを任務としている。そして、それは単に守るだけではない。国際的規模で、資本主義と社会主義国家の闘争が成熟する日、赤軍は国際プロレタリアートの輝かしい軍隊としての威力を発揮するものだ。赤軍の中には共産党の細胞が形成され党の指導が貫徹している。
 赤軍の兵士の生活は、政治的・経済的・文化的の何れにおいても、ツァーの時代の虐待された生活と比べることの出来ぬ位にすぐれている。ツァーの軍隊(それは日本[#「日本」に×傍点]の軍隊にも云えることだ)の下劣な体刑、重い背嚢を脊負って忠誠[#「忠誠」に×傍点]のしるしとして幾時間も捧げ銃をしていることは、どこにも見られないことだ。赤軍兵士の生活について、さきに引用した一英国人の手記を紹介しよう。
「ロシアに於ける多くの愉快な経験の中で、私は、カザンに於ける赤軍の兵営の訪問のことを憶い起す。私は、初め大した興味は持っていなかった。兵営は広々として、清潔であった。兵士達は充分のものを着ていた。そして食物はうまそうであり、又分量豊かでもあった――士官達が私に談《はな》したように、ポーランドの軍隊で指定されているよりも、数百カロリー優っておった。兵士たちのために与えられている社交生活は、退屈を訴える余地を少しも残さなかった。というのは、壁に貼った図表に従って、毎晩劇や、キネマや、演奏会が彼等のために開催せられておったからである。一般的な政治的雰囲気は、読書室の『レーニンの隅』で供給せられた。一つの部屋では素人劇団が稽古をしておった」
「吾々は、他のどんな軍隊においてもこういう情景を、想像することも出来ない。然しそれは、この革命的軍隊の全精神及び組織の典型的なものであった。他の軍隊は政治を一切駆逐している。然しこの軍隊は、良き兵士は、彼が奉仕している目的を、意識していなければならぬという信念を基礎としているのだ。彼は、ただに国の領土の防衛者たるばかりでなく、一個の世界的理想の従僕なのだ。赤軍は、その政治教育に関する教程をもっている。そしてすべての新兵は、その小銃を使いこなすのと同じように、この教程を充分に理解することを要求せられる」
 ソヴェト同盟の勤労大衆は英雄的な建設力をもって、第一次五ヵ年計画を四年で完成し、今や第二次五ヵ年計画に着手している。一九二九年、五ヵ年計画が始まった当初から、その驚くべき生産拡張のプランと、更に驚嘆すべきその実現について多くの報告をわれわれはうけている。五ヵ年計画によってソヴェト同盟は失業者を一人もなくし全生産を或る部内では四〇パーセント―七〇パーセント増大させた。世界恐慌が停止するどころか進展しつつあるのに反して、ソヴェト同盟の社会主義建設は、巨大な成果を収めつつある。一九三二年上半期の成果は次の統計を示している。
[#ここから2字下げ]
       本年度    前年度
国有農場  一、二〇〇    五〇〇
集団農場  六、七〇〇  五、六〇〇
[#ここで字下げ終わり]
 動力四四パーセント増、石炭二七パーセント増、鋼鉄一一パーセント増、機械三六パーセント増(トラクター七五パーセント増を含む)そして、ブルジョア新聞ですら、「五ヵ年計画以来投資された巨額の資金は今や漸次利益をあげつつある」(八月十日朝日新聞)と報道させざるを得ないのだ。
 之に反して、列国帝国主義においては、恐慌の進展に伴って、階級闘争の激化、一連の革命的昂揚、極度の大衆窮乏――反ソ戦争のための準備がみられる。
 だが、驚くべきは、尨大な統計の字面ではない。そのことごとくがソヴェト同盟では真に勤労者の幸福のため、階級のない社会招来のためになされているのだ。ソヴェト同盟でドニェプル発電所が完成したという一事は決してただ数千万キロワット時の電力増加を意味するだけのものではない。数千万キロワット時の電力の増大、それに応じて工場が電化し、農村の電化とラジオ網が拡大するということは、ソヴェト同盟ではそれだけ早く真に自由な階級のない社会が来る、経済的基礎の昂揚を意味するものなのである。
 既に第二次五ヵ年計画の政治的内容について、本年始めの第十七回党会議は次の如く声明した。
「資本主義的要求と階級一般の最後的清算、階級的差別と搾取を生み出すところの諸原因の完全な廃棄、経済及び人間の意識内の資本主義的残滓の克服、搾取なき社会主義社会の意識的・積極的建設者への全勤労者の転化」地球の六分の一のプロレタリアートの国がプロレタリア独裁の強化によって階級なき社会への巨歩を踏み出しているのをみるのは我々の限りない悦びである。
 が、我々は、この労働者・農民の祖国を守らねばならぬ。日本のブルジョア・地主的天皇[#「天皇」に×傍点]を先駆として、列国の帝国主義がその毒爪を我等のソヴェト同盟と中国ソヴェトに向け、干渉戦争の危機が愈々《いよいよ》迫りつつある今日、我々は更に新なる決意を以て、我等の祖国を守らねばならぬ。反ソ干渉戦争反対、ソヴェト同盟、中国ソヴェトを守れ、と云う叫びと行動は来るべき革命第十五週[#「週」はママ]年を前にして、全世界のプロレタリアートの間にたかまりつつある。
 曾て、レーニンは書いた。「今や歴史は、他のいかなる国のプロレタリアートの総ての当面の任務のうち[#「当面の任務のうち」に傍点]、最も革命的な任務[#「最も革命的な任務」に傍点]を、吾々の前に提出した。この任務の実現、即ち、ひとりヨーロッパの反動のみならず、更に又(今や、吾々はこう云い得るのだ)アジア反動の最強の支柱の粉砕は、ロシア・プロレタリアートを国際革命的プロレタリアートの前衛となすであろう」(何をなすべきか)既にロシアの党は美事に、このことを示し得た。
 今や、第二の革命と戦争の時代において、日本プロレタリアートの前におかれている任務の重大さは、まさに、かつてのロシア・プロレタリアートの任務にも匹敵するほどのものだ。我々の前には、世界帝国主義列強における最も反動的な城塞がそびえている。我々労働者・農民も、この城塞を不屈の闘争で攻め落し、国際的に重き歴史的任務に答えねばならぬ。
 我々、日本の労働者・農民は、アジアにおける最も野蛮な支配体制、自国ブルジョア・地主的天皇制[#「天皇制」に×傍点]を打倒し、ソヴェト日本を建設するための闘争こそ、何よりも我等の祖国を守り、世界革命[#「革命」に×傍点]の勝利のための道であることを知っている。[#地付き]〔一九三二年十二月〕



底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年7月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第九巻」河出書房
   1952(昭和27)年8月発行
初出:「拾銭文庫」第一輯、日本プロレタリア文化連盟
   1932(昭和7)年12月10日発行
※「×」傍点は底本、もしくは底本の親本で伏せ字を起こした文字。
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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