があたえられる。
 このような条件は、英国工場にあるものとはくらべものにならない。われわれの視察を通じて一番意義のある点はわれわれが次の事実を発見したことである。すなわち、労働者が生産を増加し浪費と破損を減少させたならば、賃金や労働条件が自然とよくなってゆく。このことはレプセ工場ばかりでなく、ソヴェート・ロシア内のすべての工場についていうことが出来る。」(ソヴェートの友、八月号、七頁)

 日本では、労働者・農民のくらしはどんなか。
 失業者は三百万人を越え、しかも日々激増する一方だ。
 賃金は下る一方だ。〔二字伏字〕ブルジョア・地主は現在の恐慌を勤労大衆の肩におしつけて逃れようとしているのだ。賃銀はそのためにずっと下げられている。日銀の調査による「機械及び器具工業」の賃銀をとってみよう。
 昭和五年四月(一九三〇年)一八六銭三
 昭和六年四月(一九三一年)一七九、一
 昭和七年四月(一九三二年)一七三、八
 これは、七年四月の賃銀を五年四月に比べると、十五銭七厘の減少、六年四月に比べると五銭七厘の減少である。昭和元年を一〇〇とすると今年の四月は九四・四にあたる。機械産業は、軍需品製造のため「活気」を呈している。極めて少数の産業なので、未だ賃銀の低落が甚だしくないが、それでもソヴェト同盟の機械工の一ヵ月の収入に比べるとくらべものにならない相違だ。さきにあげた英国の労働者の報告でみると、一九三一年九月の収入は、一四〇ルーブル(円)であるのに、日本の一九三一年四月の一月の定額収入は、五十二円十四銭だ。約三分の一である。
 機械でなく、製糸等の産業では、昭和元年を一〇〇とすると、今年四月は六〇・二の割合で、昨年四月を一〇〇とすると八七・九の割合である。そして大体、一昨年に比して、十五銭、昨年に比して五銭位宛の賃銀引下げが行われている。
 賃銀がこのように下っているだけでなく、軍需生産等の動いている産業では、居残り、夜業等の労働強化で、不衛生極まる施設の中で、身体はどんどん悪くなって行くばかりだ。臨時工は、本工よりも極めて悪い条件でいれられて、失業の憂目を目の前にぶらさげて、資本家の戦時利潤の犠牲にしぼられている。
 婦人の労働者は、男子の労働者の苛酷な条件に輪をかけたような、殖民地的な搾取にあっている。産前・産後の休暇はおろか、便所に行く時間さえ制限している。大抵の繊維の
前へ 次へ
全30ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング