うなのであった。
丁度、今年の若竹が育つ盛りの時分で、おじいさんの庭にもはぐれて生えた数本の若竹があった。日毎に、日の光を梳いてあつみの増すそれ等の若竹の葉越しに、私共は毎日雨戸をしめた裏の家の軒下を眺めて暮すことになった。
入梅があけると、空家の庭に苔がつき、めっきり青草が伸びた。雨戸はしまったままだ。
夏になったので、何処かの子供が、空地を見つける子供の本能で早速その叢へ躍り込んで来た。豌豆の手に立ててあった細い竹ぎれを振廻す男の児の裸の腹。
「アラ! いた、いた」
草の葉を掻き分け、見えたり隠れたりする小娘の赤い兵児帯。――
子供の心にも、白々と雨戸のしまった空家は、叢が深ければ深いだけ、フッと四辺が森閑とした時変な気持を起させるのか、荒庭は直放棄されてしまった。
もう子供の声もしない。草がのびる。草ばかり夜昼繁茂する。夜半、目が醒める。微に草の葉のすれ合う音がする。月を吹く風か? いやあの青草のまた伸び上る戦ぎであろう。菁は凄に通ずると感じながらその戦ぎを聞いた。
その空家の叢の蔭に、いつからとなく一条草が踏みつけられた。そこから白黒斑の雄犬が一匹私共の家へ来る
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