此は、一方から云えば恐ろしいことだ。二人の終りを、此世の終りを見ると同じ厳粛さで見ようと云うのだから。然し、こう云う心持の一方には、その時が来る迄、腰を据えて、自分の道に進むことを可能ならせる。
Aにも、大きな影響を与えて居ることと思う。
彼には、一層、感傷的に行ったろうと思う。手紙をよこし、『有島さんのことで深く心を打れました。「自分は出来る丈の力で堪えて来た」と云う言葉は何と悲壮な、心持を充分表した言葉でしょう』と云う文句があった。彼には、堪える丈堪えたのだと云う自己に対する承認とともに万事を放擲した心境が、一種の感傷癖でなつかしく思われたのだろう。
又、彼のすばしこさで、この事件に対する世人の good will も分ったに違いない。彼の、「自分の決心は定って居る」と云うことに対する自分の merit は、一層、ましたと云うべきであろう。彼のそう云うことに対する不純さ。彼がすねて、其那ことをするのを見るに堪えない自分の心持。一方から云うと、彼が得々として善事をしたと思って居られるのが堪らない憎さ。
私達の心持も複雑に且つ恐ろしい関係にあると思う。
私は、有島氏の死が
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