同時に盲目な生命の力に支配されずに居ない強烈さを持って居る。従って、彼より憎らしい女になる時がある代り、その強さが素直に出た時、私が辛じて、天に達する階子のありかを知ることの出来る足場となるのだ。」
「或女」以後、私は、彼の作品が、或行き詰りを持ち始めたことを知った。読んで見ると、精神の充実したフルーエントなところがなく修辞的でありすぎ、いつまでも青年の感傷に沈湎して居るような歯痒さがあった。「星座」にも同じ失敗を認める。大づかみに、ぐんと人生を掴まず視点が揺れ、作家としての心が弱すぎた。為に、あれ丈文化的価値を裏に持った素材が、明かにこなされ切れなかった。
時に、彼の精神の或面に、私が、物足りなさによる侮蔑に近いものを感じたのは争われない。何か、この先もう一つ、吹っきれば素晴らしいのが見えて居るのに、いさぎよくそこまで踏切ってなぜ呉れないか、と云う愛の変形であったのだ。
何かで「忘れ得ぬ人々」? と云う題で書かれた感想に類したものを見て自分の感じたことも同じだ。
最近、彼が、もう一年近い沈黙の間にどう旧套を脱されるかと云うことが、自分にとって一つの大きな、楽しい期待であったので
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