、人間の畏ろしさがしみついて居る。彼の死には、種々不可解の点があり、それを理論的に批評するに困難がある。然し、彼が、性格的にあれ程殉情的なところと、理想主義、殆どストイックなところとのあったことに、今度のパニックは重大な関係を持つこと丈は争われない。
彼には、実に多くの、美しい、センチメンタリティー、甘さがあった。自分のような女性、若者にもなお且、その柔さで物足りなさを覚えさせるほどの。而も、彼には、人間として精進し、十善に達したい意慾が、真心から熱烈にあった。
作品にその二つが調和して現れた場合、ひとは、ムシャ氏の頼もしさとは又違う種類の共鳴、鼓舞、人生のよりよき半面への渇仰を抱かせられたのだ。
彼は、学識と伝統的なセルフレストレーンの力で、先ずハートに感じるものを、頭の力で整理したと云う人であった。人情によって理解し、直覚し得たところを、理想に燃える知で文学にした。情と知とを二分別し得るものとすれば、彼は第一に情の人で、それを粗野に取扱われなかった情そのもののデリカシーと、後天的の品とがあったのだ。
「此点は、私に性格の或類似からよくわかる。私の感情は、彼より単純で、粗朴で、
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