理論家にとっては一篇の作品を細心に吟味することで、プロレタリア文学として次の発展段階へ、しかじかにありたい、という要望をひき出すことが可能である。作家が、その要望を自身のものとして実感したとしても、作品の現実でそれを具体化することは、必ずしも、作家にとって一二ヵ月の間にゆるされる可能でない場合が多い。とくに、プロレタリア文学において、この点は深い意味をもっていた。プロレタリア文学における作家の成長は、ブルジョア文学の分野にあるように、ただ書きかたのこつ[#「こつ」に傍点]の問題ではないし、独特性の異色の獲得でもないし、ましてただ珍奇な題材の発見の問題ではない。プロレタリア作家は、日本の社会の歴史とともに階級的に成長しなければならなかったのだから。極端な暴圧とたたかい自身の恐怖を克服しながら――。
プロレタリア文学運動で、はじめて日本の作家の一部がこれまでの小説をかくこつ[#「こつ」に傍点]や文学のかん[#「かん」に傍点]以外の客観的なところに自身の創作理論をもつことができるようになった。作家が評論風な執筆をする能力をもってきた。これは、感性的・主観的にだけ流れてきていた日本の現代文学
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