あたり前なのです。ついて居る道さえ見失わなければいつかは人里に行けます。
或時は、花が一杯咲いて気の遠くなる様なよい匂いのする原っぱを歩きよろこんで居るうちに、道がいつの間にか嶮しい山路になって私は牡鹿の様なすばやさで谷から谷へ渡らなければなりませんでした。
急な川の流れを越そうとして足をさらわれたり、ひどい荊で手を痛くした事も沢山ありました。
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「まあ」子供の中から起る歓声。
「可哀そうねえ。
「そんなにひどい事なの。
「それでそんなに色が黒くなってしまったの。
此等の断片的な言葉が、低く三人の中からゴチャゴチャに出る。
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旅 ええ、ええ。
そいからもっと貴方がたがびっくりなさる事がある。
それは斯う云う事なんです。
あなた方がお母様に寝部屋につれて行っていただいて冬は暖い、夏は涼しいお床にお入んなさる時に私共は、外の夜露の下りる木の下にねる事がある事です。
びっくりなさるでしょう?
B まあ、外でねるの。
そりゃあいけないわ、
夜は風を引き易いって云うのに。
もうするのおや
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