鸛《こう》の鳥が小さい私をオパール色の宮殿から母さんの膝につれて来たんです。
 それからあったかい日光と、よい空気と、甘いお乳で、やきたてのお菓子の様に育って、手足がたくましく真直になった時、私は跳る様にして、今日まで続いて居る長い旅をはじめたんです。けれど……
A あなたたった一人で?
 お母様といっしょじゃあなく?
旅 ええたった一人で。
 勿論始めは友達もあったんですけれどね。
 あんまり長い間の事でしょう、
 それに行く方も違って居るんで今では私の影坊師が私のお伴《とも》なんですよ。
B 淋しかないの?
 たった一人で旅なんかするときっと困る事だらけなんだろうのに……
C 私はたった一人だとは思わないわ。
 お母様のおっしゃった事、
 お父様のおっしゃった事、
 神様のおっしゃる事はいつでも一緒に歩いてるんですもの。
旅 ほんとにね。
 自分一人は又世界中の人でなけりゃあいけません。
 それから私は毎日毎日一生懸命に歩いてるんですよ。
 お月様のいい時には、貴方方のねていらっしゃる夜でも森をこして行きました。
B 提灯もなくって?
 案内者もつれずに?
旅 そんなもののないのが
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