旅人(一幕)
宮本百合子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)株《かぶ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)朝|鸛《こう》の鳥が

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)人物[#「人物」は太字]
−−

    人物[#「人物」は太字]
[#ここから2字下げ]
旅人
子供三人
A 無邪気な晴れ晴れしい抑揚のある声の児
B 実用的な平坦な動かない調子で話す児
C 考え深い様な静かな声と身振りの児
[#ここで字下げ終わり]
    場所[#「場所」は太字]
[#ここから2字下げ]
小高い丘の上、四辺のからっと見はらせる所(講堂の段の上を丘に仮定)
[#ここで字下げ終わり]
    時[#「時」は太字]
[#ここから2字下げ]
夏の夕暮に近い午後

[#ここから4字下げ]
B、Cが丘の中程の木の切り株《かぶ》に並んで腰をかけて、編物をして居る。
B子は赤い毛糸。
C子は青い毛糸。
編棒を動かしながら二人は気が落ついて居るらしい口調で話して居る。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
B ねえCちゃん、今日は私一度もAちゃんに会わないのよ。
 どうしたんでしょう。
C ほんとにねえ。
 若しかひょっとしたら病気なんじゃあないの?
B そうねえ。
[#ここから4字下げ]
Bは何か思い出すらしく考えて居る。
やがて思いついたらしく、膝を叩いて嬉しそうに笑いながら、
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
B Cちゃん、私共はまあ、馬鹿な心配をしちゃったわ。
 ほら、貴方おぼえてない?
 こないだこの次《つぎ》のお祭りの日に町の叔母さんのところへおよばれだって云ってたじゃないの。
 今日はそれで行ったのよ、ね?
 そうじゃあなくって。
C そう云えばそうねえ、ほんとに。
 私もうすっかり忘れて居たわ。
 じゃあ、もうじき此処を通るでしょうね。
 少しお家へ帰るのをおそくして一緒に行きたいわ。
 貴方、そうしなくって?
B ええ、ええ、ほんとにそれがいいわ。
 もう少し待ってて見ましょうね。
 きっとお土産を沢山《どっさり》抱えて来るに違いないわ。
C 私町のお話をききたいわ。
 可愛い児が沢山居るんだってねえ。
 大きなお家がならんでるんだってね
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