てスイスイとたつペンペン草の群を見た。
 屋根の瓦の間に――干た田に又は牧場にひろびろと咲き満ちて居る。
 いかにも可愛らしいなりをして居る。
 私はペンペン草をすいて居る。
 第一そのわだかまりのない気軽な名が気に入って居るし次には白とみどりのすっきりしたお茶漬をサラサラとかっこむ様な趣もすきだ。
 東北のこの地方の子供は前歯でその茎をかんで笛の様な音を出す事を知って居る。
 茎の両端をひっぱってその中央を爪ではじいて軽いしまった響を出す事も子守達が日向に座ってよくして居る事だ。
 山の多い湖の水の澄んだ村に生える草には姿もその呼名もつり合って居る。

     牛乳屋の小僧

 この桑野村で始めて牧牛を始めた石井と云う牛乳屋の家に居る小僧なのだ。
 七八つの子の体をして居るが年を聞けば十二だそうでいかにも小さいなりをして居るが中々可愛い児だ。
 頭も顔もひとっくるめにまんまるちくて目までがまんまるだ。
 生意気に「はっぴ」を着て筆のさやの様なもも引をはいた足に柄にもない草鞋《わらじ》をいつも履いて居る。
 牛乳を家々に配る事と子牛のお守りが役目で寒さに風一つ引かずに暗いうちから働く
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