駒
那須野が原のほおけた雑木林の中をしずしずと歩む野飼の駒を見た。
黒い毛並みをしとしと小雨がうるおして背は冷たく輝いて大きな眼には力強さと自由が満ちて居る。いかにものんきらしい若やいだ様子だ。
枯草の上を一足一足ときっぱり歩く足はスッキリとしまって育ったひづめの音がおだやかに響く。
小鳥さえも居ない木から木へと見すかしては友達をさがす様な様子をして、甘ったれる様に鼻をならしたり小雨のしずくをはらう様に身ぶるいをしたりする。
楽しそうで又悲しそうに初めて野放しの馬を見た私の心は思う。
まるで百年の昔にもどった様に平和な原始的な気分がみなぎって居る。
これからは青草も多く心のままに得られるだろうけれ共雪ばかり明け暮れ降りしきる北の国に定められた臥床もなくて居る時はさぞわびしいだろう。
あんまり自由すぎて育てられた子供の様な気で居るに違いない。
私はこんな事も思った。
そうっとくびを撫でてやりたい様な気持を起させるほどすなおらしい人なつっこい目をして居る。
軽い淋しさがわけもなく私の心の底に生れた。
ペンペン草
私は到る所に白いなよなよとした花をもっ
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