いものだけれ共、ぶなの輝きが少しでも高ぶった気持をもって居たら私はきっと見向きもしなかっただろうに――
私は幸にもぶなの木魂が謙譲のゆかしさを知って居て呉れた事を心からうれしく思う。
日光連山とぶなの木
秋が立派だと云う日光連山は今かなり美くしい姿をして居る。
かなり美くしいどころではなく残った雪といろいろな雲とによって美妙な美くしさを持って居るのだ。
三分の一ほどの上は白いフワフワ雲にかくれて現われた部分は銀と紺青との二色に大別されて居る。
けれ共ジーッと見て居るとその中に限りない色のひそんで居るのを見る。
一目見た時に銀に見える色も雲のあつい所は燻し銀の様に又は銀の箔の様にちっとも雲のない様な所には銀を水晶で包んだ輝きを持って居る。
太陽のよくさす部分は銀器を日向で見る様にこまかい五色の色の分るのが有るのさえわかる。
紺青の色も濃くうすく青味勝った所もさほどでない所もある。
銀と紺青といかにもすっきりした取合わせの下に黄金色に輝いて微笑むぶなの木の群がつづいて居る。
山々の銀と紺青が笑むと、ぶなの黄金色は快く笑いかえしてその間の桜のうす紅の花は恥か
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