切り株には何かしら思いのある様なみじめなさしぐまれる気持になる。
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 歎いて居るささやかな木の魂が私の心にとけ込むのかもしれない。
 神から生を受けられたものの尊い賤しいにかかわらずどっかしらん共通の思いが魂の一部に巣くって居るんだろう。
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 こんな事も思った。

   ぶなの木

 かなり沢山の木々が皆緑りになった中にぶなの木ばかりは、はずむ様な五月の太陽を待ってまだ黄金色で居る。
 松杉の中に交って輝いて居るのも麦の畑中に群れて笑んで居るのも美くしい。
 葉は叩いたら、リリーン、リリーンと云いそうなかたくしまった光りを持って居て葉のふちは極く極く細かいダイヤモンドをつないだ様にさえすんだ輝きを持って居る。
 美くしいと云う中に謙遜な様子をもってきりょうの良くて心のすなおな身柄のいい処女の様な心を持って居るに違いない。
 一目見たばっかりで紅葉より私はすきになった。
 五月に葉が生れかわると云う事やつつましげな輝きや、やたらに大きくのっぽに育たない事なんかが私の心を引いたのだ。
 思いきって威張ってほこり顔な美くしさも時にはまたなく美くし
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