ぶやきは私の心のそこのそこからおびやかされた。
――ちゃーあん――
私は私の車からはなれてあとにつづくも一つの車にのった弟の名を呼んだけれ共止まらない速い風に持ちさられて私の声は後の車にとどかなかった。
私の声の淋しい余韻はきれぎれになって私の耳にかえって来た。
私は声をかけさえ出来ない様になって自分の呼吸の響ばかりをたよりに吹雪の中に灰色の一本道をたどらなければならなかった。
赤い小松
煤煙のためだか鉄道の線路に沿うた所に赤い小松を沢山見た。
背は低く横に広く好い形に育った小松がそのみどりの葉の所々を赤茶色に染めて居るのは木のために良い悪いなんかは別にしてただ奇麗なものだ、そして又極く美術的なものだ。
木の切り株
栃木県の矢板のステーションのすぐそばの杉林の一部が思い切り長く切りはらわれて居た。
田か畑にするらしい。
まだ新らしい生々とした香りの高そうな木の切り株が短かい枯草の中から頭を出して居る。何でもない事の様で有りながら小雨にぬれてひやっこそうに光りながら皮をぬいだ杉の幹が横たわって居るのと淋しそうにたよりなさそうにして居るあまたの
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