にゆられて行った。
私の行く道は大変に長く少しの曲りもなしにつづいて居る。
小村をかこんで立った山々の上から吹き下す風にかたい粉雪は渦を巻きながら横に降って私の行く手も又すぎて来た所も灰色にかすんで居るばかりだ。
私の車を引く男はもう六十を越して居る。細い手で「かじ」をしっかり握ってのろのろと歩くか歩かないかの様に進んで行った。
そして時々ブツブツと何だかわけのわからない事をつぶやいた。
不安と寒さに会ったいじけとで私はたよりない気持になった。
逃げ出してあてどもない旅路を行く人の心をそのまんま私の心にうつした様に東京の私のこの上なく可愛がる本の奇麗な色と文字を思い出し日光にまぼしくかがやきながら若い楓の木の間を赤い椿の花のかげをとびまわって居る四羽の小鳩の事も思い出された。
私は死ぬまでこの車にゆられゆられて行かなければならない様に思えた。
私のかじかんだ手は自分の手と思われず痛いほどつめたい頬は紫色になって居るに違いない。
眼をつぶって三本通って居る電線の歎く声をきき車の心棒のきしむ音をきいた。
――――
老車夫はまた何かつぶやいた。
そのわけのわからないつ
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