にありながら
まだ旅心失せぬ悲しさ
なめげなる北風に裾吹かせつゝ
野路をあゆめば都恋しや
らちもなく風情もなくてはゞびろに
横たはれるも村道なれば
三春富士紅色に暮れ行けば
裾の村々紫に浮く
昼も夜も風の音のみ我心を
おとなひてあれば只うるみ勝
帰りたや都の家の恋しやと
たゞひたぶるに思ひ居るかな
春おそきわびしき村に来て見れば
桜と小麦の世にもあるかな
歌唄ひ物を書けども我心
一つにならぬかるきかなしみ
訪ふ人もあらぬ小塚の若きつた
小雨にぬれて青く打ち笑む
行きずりの馬のいばりに汚されし
無縁仏の小さくもあるかな
那須の野の春まだ浅き木の元を
野飼ひの駒はしづ/\と行く
浦若き黒の毛なみをうるほして
春の小雨は駒の背に降る
あけの日も又あけの日も北風に
吹きこめられて都のみ恋ふ
吹雪の中を――
東京では桜が満開だと云うのに私は此処に来るとすぐから吹雪に会わなければならなかった。
はてしなくつづく広い畑地の間のただ一本の里道を吹雪に思いのままに苦しめられながら私は車
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