裏毛皮は無し
――瀧田菊江さんへの返事――
宮本百合子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)凝《じ》っと

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三九年十二月〕
−−

 この間の邦語訳の椿姫の歌うなかに、この受取り(でしたか、書きつけでしたか)を御覧下さいということばがあったが、それが日本語で歌われるといかにも現実感がありましたが、昨今ではそのうたをうたうプリマドンナの腕も、ステイジ用のトランク運びで逞しくなるとは面白い世の中ですね。
 ガソリン払底は、なるほど、郊外の奥にお住居だし、お仕事の関係上、直接でしょう。でもあなたのハンド・バッグのなかは豊富で、汽車がひっくりかえったときの内田さんのように、いくらでもとおっしゃるとすれば、マア豪勢みたいなものではないの。
 私の方の状態は、先ず大笑一番しなければ、ものも云えないような有様でね。おかしいでしょう。八面六臂的欠乏で困ります。原稿紙というものが、この節ではなかなか只ごとならないものになって参りました。何しろちり紙から心配という次第ですから。こんなさっぱりと四角い紙
次へ
全4ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング