余録(一九二四年より)
宮本百合子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)大臣《おとど》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)延喜九年|己巳《つちのとみ》四月四日。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「田+比」、第3水準1−86−44]
−−

     余録

 菅公を讒言して太宰の権帥にした、基経の大臣《おとど》の太郎、左大臣時平は、悪逆無道の大男のように思われて居る。
 小学歴史で読んだ時から、清くやせた菅原道真に対して、グロテスクな四十男が想像されて居た。ところが、実際はそうでなかったらしい。寧ろひどく偏狭な、神経質な、左大臣の官服の下に猿のような体のあることを想わせる男ではなかったた。小さく窪んだ二つの眼を賤しく左右に配って、せかせか早口な物の云いようをしたようにも想われる。
 彼の住居は八條にあった。内裏までかなり遠い。冬だと、彼はその道中に、餅の大きなの一つ、小さいのを二つ焼いて、温石のように体につけて持って行った。京の
次へ
全5ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング