予選通過作品選評
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)[#地付き]〔一九四八年六月〕
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        「水中の町」 モチズキ ヨシ

 全体メロドラマ的にあつかわれすぎている。ヤミ屋の親分、子分、水中の町の顔役、その結たくがたて糸となっていて町のあたりまえの人たちの水中生活の姿が浮び出ないしそこで赤旗をもっている人々の活動も添えものとしてあつかわれていて着実な町の生活とのつながりの現実の場面がわからない。情景のとらえかたは極めてメロドラマティックで、このごろの大衆小説の一部にあらわれているヤミやものにやや近くなった。織田作之助が書いた小説のあるもののようにこしらえた筋で小説を動かしてゆくことは、文学を勉強しようとする人にとって警戒しなければならない。

        「蒙古一九四五年」 松井 太朗

 作者は材料の整理に失敗したし、テーマをはっきりは握しないで百枚目ぐらいから、つかみはじめている。前半の旱魃の状況、その対策、日本人官憲の収奪の詳細は、百枚からあとにあらわれている。蒙古における敗戦
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