終った。あとから、縫子が赤い細紐姿で餉台のところへ出て来た。番茶が注ぎ置きになって瀬戸引の薬罐にあった。彼女は飯の上からそれをかけ、干物をむしりながらお茶漬を食べはじめた。目の前は三尺の縁側、直ぐ隣家の生垣で疎らな檜葉の間から庭の一部が見えた。奇麗に箒目のついたところに赤い柿の葉が散っている。日のにおいがしそうな光線が清げな土地にさしていた。脹れぼったい重い瞼でその日の澄んだいろを見ながら、くちゃくちゃふてた食べようをしているうちに、縫子は涙をこぼしだした。胸にしみ入るような淋しさがあった。日の光があまり透明で晩秋らしいからだろうか。――一人でいると、心がどうかなってしまったような縫子にも、こういう風に自然から迫って来るものを感じることが出来た。彼女は何故涙がこぼれるか人に話して聞かされないと同じに、何故自分がこんなひどい無気力に圧倒されるか自分にすら説明出来ない。日のいろを眺め涙を勝手に頬へ流していると、縫子は少し楽な気分になった。
また床に入ってから眠ったものと見える。しかも随分眠ったらしい。縫子は人声で目を醒した。西日が裾の方の障子に当っていた。お針子はもう帰ったと見え、六畳で
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