んな装《なり》? 模様?」
「そうだったわね、何あの模様――蓬莱じゃなかった?」
縫子は指先に繃帯をしながら、
「……見えなかったわ」
とぶっきら棒に返事した。本当は蓬莱だったのを知っていたが、彼女はてふが得意で喋るのがだんだんいやになり出したのであった。然してふは、
「お婿さんよかずっと立派だったわよ。お婿さん、ありゃあきっと千代乃さんより小っちゃいに決ってるわ」
とがらがら云って、皆を笑わせた。
「――でも千代乃さんもこれからは今迄のように行かないわねえ、うちの姉さん見たってわかるわ」
米がしんみり云い出したにつれて、二十前後の娘たちはてんでに嫁に行くのがいいか、養子がいいかという議論を始めた。次第に熱中し、実例を出したり、噂の又噂をしたりして盛に自分の言葉を朋輩に信じさせようとする、興に乗った様子を縫子は火鉢のところからぼんやり眺めていた。縫子はよく何も手につかずぼんやりしていることの多い娘であった。左の人指し指と薬指とに白金巾のきれっ端でちょいちょいと繃帯し、小さい蝶でもついているような手を大火鉢にかざし、その甲に頬ぺたをのせて皆の方を眺めている。火気の故で、彼女の薄皮で色
前へ
次へ
全21ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング