白な顔が上気《のぼ》せうるんだようになった。それでもそうやっている。何か可哀そうっぽいところがあるので、ふと見咎めた米が、
「縫子さん、どうかして?」
と云った。
「おや、悲観してるの? 何か」
さも揶揄《からか》うように仰山なてふを睨んで縫子は徐ろに首を擡げた。彼女は、腰を反らせるとくしゃくしゃ両手で眼を擦《こす》りながらとってつけもなく、
「あああ、眠くなっちゃった」
と大きな生欠伸《なまあくび》をした。それを見ると皆はひときわ高く笑いこけた。縫子がごまかそうとしたのが明かだと思うから、なおさら笑いがこみ上げて来る。縫子はあまり笑われるので自分までほんのり赧くなってしまった。
「おやめなさいってば――」
彼女は面倒くさそうにとんび足に坐ったまま風呂敷包の方へ小柄な紡績絣を着た体をずらし、やっと仕事に取懸った。
二
縫子は、いつからとなくヒステリー娘だと思われていた。機嫌のいい時面と向って「縫子さん、またヒステリー起しちゃいけませんよ」などと出入りの細君が云っても、彼女はちっとも怒らなかった。万事心得た年のいった娘らしく笑って「へえ、へえ」などと冗談に紛らし
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