の人はどう」
口で冗談云いながら、英輔が眼では割合一心に見るのが縫子に感じられた。彼女は無関心そうに南京豆を鑵に戻し始めた。
「英兄さん、どんな奥さんがよくて。――ハイカラな人?」
「ハハハハ単刀直入だね登美っぺは。――田舎っぺえは御免だよ」
「英語が話せたり、ピアノが弾けなくちゃいけないのね、そんなら……」
「ピアノなんかどうだっていいさ」
ぱらぱらと夥しい令嬢の写真版つきの雑誌を翻したが、英輔はふと真面目に傍に縫子のいることなど念頭にない自然さで考え深く呟いた。
「これからは女もせめて専門学校位出ていないじゃ駄目だな」
南京豆は鑵の中へ落ちるたんびに喧しい音を立てていたが、縫子はこれを聞洩すようなことはなかった。南京豆が千落ちる音よりこの呟きは大きい。――
「――姉さんたら。母さんが呼んでるじゃないの。……駄目よまたぼんやりしちゃっちゃ」
縫子は初めて気がつき、のろのろ台処へ立って行った。
縫子は明る日から再び六畳に現れ、お針子の仲間に加った。再び地袋の前に坐っている彼女を見て、もういいのと訊く者さえなかった。
「縫子さんお早う」
「お早う……」
昼休みに米が大菩薩峠
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