から……」
なみが本当に少しあわてたように、
「困りましたねこれはどうも。出たいようだが九貫は辛いわね」
と、古風な束髪をピンで掻いた。
「じゃ特別八貫にまけます」
縫子は勝負の間じゅう口らしい口は利かなかった。登美が直き嬉しがったり悲観したりするのを姉らしく笑いながら、時々英輔に助けて貰い、また彼の札を覗き込み、遊んだ。彼女は上気せ幸福そうにあたたまっている。背中を少しかがめ体じゅうどこにも力らしい力がなくて若い婆さんのような様子が現れた。縫子は仕合わせを感じていると、多くの若い娘のように活溌に敏捷にならず、腕に力のないような、よたよた歩みをしそうなところが出来るのであった。
十時頃。
「さあ、これでお仕舞」
と英輔が先に札を投げ出した。
「ああああ、すっかり熱中しちゃった」
勘次郎は煙草をつけ仔細らしく云った。
「やっぱりトランプなんかより面白いね日本人には」
なみが、
「さあお口がせっついているでしょう皆さん」
と云いながら台処へ立った。
英輔は側にあった婦人画報を見始めた。登美が一緒に覗いた。
「英兄さんどんな人がすき?」
「さあね、どれもすき」
「本当は? あ、こ
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